私んちの婚約者

その日の夜は、いつになく愁也の帰りが早かった。
荷物を置いて手を洗った彼がキッチンに立つ私の隣に来て、「手伝うよ」とさらりとお皿を受け取ってくれたんだけど。

あのすみません、着替えてきてください。
ワイシャツまくった腕とか、めちゃくちゃ格好良いんですよ、鼻血出そうなんですよ。
夕食がスプラッタになるじゃん。

なんとか無事に料理を終えた時には、堪えた私を褒め称えてやりたくなったよ……!

勇者梓、無事に帰還致しました……!



「それでいつにする?」

夕食をとりながら、愁也が言った。
私はぽかんと聞き返す。

「へ?何が?」

「結婚」

あ。
あ~~。
はいはい。その件ですね。


「忘れてたな」

愁也が横目で軽く睨んできた。

し、しまった。
いや忘れてないけど、いっぱいいっぱいだったんだよう。

「わ、忘れてないもん。えーと、では大安吉日とゆうことでぇ……」

「だから梓、何時代の生まれ?
てか普通こういうの、女の方が敏感じゃねぇの?」

……女子力低くてすみません。

「常識的に考えたら、まあ梓が大学卒業したらだよな」

愁也はそこで少し考える。


「……果たして一般常識があの人に通じるかな」

阿呆な父ですみません。
あの父のことだからきっと、「ユー結婚しちゃいなよ」とかまるでどっかのアイドル事務所の社長みたいなセリフを言うに決まってる。
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