私んちの婚約者

「イタリア支社開発部長の娘が何だ!私は日本本社の社長令嬢だっての!!」

二人をリビングに残し、キッチンへお茶の用意に来た私。

叫んでみるものの、虚しい抵抗だ。


だってさあ、私自身に彼女より魅力的なとこがある?
美人で、スタイル良くて、性格……はともかく、素直で情熱的。


私の取り柄って。


「料理と……キス?」


ありえねぇ!

ありえないよ!!
自慢できない、
恥ずかしすぎる!


履歴書に書こうもんなら「え……大丈夫?」と頭の具合を心配されてしまうか、絶対零度でスルーされる並みの特技だわ!



マキなら『馬鹿ねぇ、愁也さんが選んだのはアンタでしょ』て言うとこだ。

自信を無くしちゃだめ。
弱気になっちゃだめ。

だけど支社の準備にイタリアに行く度に、愁也はあんな風に迫られてたのかと思えば。


……ムカつく。



「梓?」


戻らない私を心配したのか、愁也がキッチンへと顔を出した。


「梓、コーヒー淹れに行ったんだよな?……なんでフィルタにホットケーキミックス入れてるの」

「うるさい!これが絶品なんだよ!多分!!」

ブスッと返す私。
愁也はクスリと笑って、私の手からコーヒーフィルターを取り上げる。
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