私んちの婚約者
葛藤、婚約者
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今日は愁也は仕事に行き、講義の少ない私は大学を休んだ。単位はまだ大丈夫……のはずだ。
だけどマリアと二人きりになった昼間、会話が保たない。

よ、よーし、お姉さんがいっちょ会話を、弾ませてやろうじゃない。見てろよ!

「ねえ、マリア。……す、好きな食べ物は?」

私の最大限の譲歩を、マリアは一蹴した。

「Non capisco(言ってることわかりません)」

あんたさっきまで日本語ペラペラだっただろうが!!
会社に行こうとした愁也にへばりついて、日本語で思いっきりプロポーズの嵐をかましていたの、見てたぞ!


いやいや、落ち着くのよ、梓。
相手は子供だ。しかも外国人だ。
国際問題を起こす前に落ち着け~。

長い長い溜め息をついた私は、こっそり握りしめていたピコピコハンマーをクッションの下に隠す。
今朝、愁也から「本物はダメだから。これにしといてね」と渡されたんだ。本気で私がマリアを叩くと思ってたんだろうか。目が笑ってなかったな、うん。


むむ、こういう時は共通の話題、ね。私達に共通するものなんてたった一つーーひとりだけだ。
なんとなく聞いてみる。

「なんでそんなに愁也好きなの?」

マリアは美女だし、本国にボーイフレンドなんていくらでもできそうなのに。


マリアは私を睨んだけど、素直に教えてくれた。

「パパの仕事のパーティーで、ワタシ大人ばかりでつまらなかったね。オロオロして周りばかり気にしてたヨ。シューヤはワタシに凄く優しくしてくれたネ」


愁也のことを話すマリアは恋する乙女で。
キラキラしてる。

そんな顔してれば、男の人は嬉しいよね。

ちょっとだけちりっとうずく胸に、知らんぷりして、私は彼女の話を聞いていた。


「ソレから何度もプロポーズしてる。シューヤは断るけどいつも優しいネ」
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