私んちの婚約者
“仕事相手の娘だから、仕方ない?”


愁也は社会人で大人だから、そうやって思えるの?
あまりに冷静なのは、愁也にとって何でもないことだから?


“じゃあ、わたしは?”


不意に浮かんだ疑問にゾッとする。


私は愁也の特別じゃないの?
私だけが、愁也の特別じゃないの?



ヤダ。やだ。嫌だ。
触らせないで。


その腕は、私のものだ。
その唇は、私のもの。


「嫌だ」


不意にこみ上げた涙を見られたくなくて。


私は彼に背中を向けた。


「梓……」



愁也の困った声なんて聞きたくない。
愁也が私に呆れる声なら、もっと聞きたくない。


「愁也の阿呆っっ!

もうキスしないぃっ!!」



子供じみた捨て台詞で、私はそこから逃げ出した。
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