私んちの婚約者
side愁也

「すまなかったね~わざわざ」

イタリアーー新社屋、社長室。
相変わらずの社長が笑いながら俺に言った。

「モテモテ君は大変だね~」

「ヒトゴトじゃありませんよ」

何故そんなに愉しそうなんだ。


「君が梓と早いとこ結婚しちゃえばいいんじゃないか、万事解決。梓に素敵な旦那様、僕に優秀なタダ働き社員」

なんてこと言ってんだ、このオッサンは。

「とにかく、マリアのことは、社長からそれとなく開発部長にお伝え下さい」


こちらへ来てすぐ、マリアを彼女の父に引き渡しに行った。
さっさと仕事へ戻ろうとしていた俺に、マリアが泣きついて、

「シューヤ、ワタシと結婚して」

と何度も言ったけれど。


「俺が結婚したいのは、梓だけなんです」


彼女と彼女の父親の前で、今度こそハッキリそう告げた。

そもそも最初に彼女に声をかけたのも、オロオロする姿が梓を思い出して、なんとかしてやりたかったからだ。

泣く彼女を見れば良心は痛むけど、梓を泣かせるほうが俺にはキツい。

俺の中心はいつだって梓。


「ワタシあきらめませーん、アズサ……蜂の巣ネ」


なんか怖いことは言ってたけどな……。
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