私んちの婚約者
愁也は私を抱きかかえるように支えて、その場から連れ出した。

「ちょっと待ってて」

入り口前のベンチに私を座らせると、一度奥に戻って行って、出て来た時にはいつも彼が使っているビジネスバッグを手にしていた。
荷物を取りに行っていたらしい。


ありがたくも私のバッグまで一緒に持ってくれて、もう一度私の腰に手を回して支えてくれる。


この人なんだかんだ面倒見が良いのだろうか。


でも見上げれば、やっぱり不機嫌な顔。


「イケメン台無し……」

ぼそりと呟いた私を、彼が一層睨む。


恐いなあ。
せっかく良い顔してるのに。


けれど不機嫌な彼が私に回している腕は、さっきの水樹君に感じたような不快感は無くて。
……むしろなんだか気持ち良くて。


「何ニヤニヤしてんの」


さあね?


アルコールの回った頭は、いつもより欲に素直だ。
愁也の綺麗な顔を近くで見ているのはとっても楽しい。


「ああ〜あの店のおすすめつくね、食べ損ねたああ」


急に思い出して思わず口に出したら、彼は呆れたように私を覗き込む。


「家で自分で作れば。あんたの料理のほうが美味いでしょ」


……え?
ええええ!?


さらりとそんな台詞を吐いた彼は、まったく動じもせずに歩いて、店を出たところでタクシーを捕まえた。
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