私んちの婚約者
「で?
多少行き過ぎなのは確かですが、梓を助けてくれたのは事実でしょう」

どういう方法にしろ、親に置いて行かれた彼女が生きているのは、その叔父のおかげだろう。


高宮社長はさっきよりも深く、自嘲気味に笑った。

「大きくなるにつれ、梓は甲斐の教えたことどころか、その前後の記憶ごと忘れちゃってさ。もしかしたら甲斐の存在そのものを忘れてるかもな。僕も勝手だけど、親子に戻れたわけ」


梓の許容量超えると忘れる癖はその頃からか。

「そうですか……」


思えば梓は鈍感だけど、家事や普段の動きには無駄が無い。効率が良いというか、ぱぱっと短時間で何かをするのは得意そうだ。
そんな過去があるなら納得。

……言動は無駄だらけだけど。(それも、まあ可愛いし)


梓を見捨てた過去を聞いて、その頃の高宮には憤りを感じるけれど。

今の高宮社長は確かに娘を想う父(……多分)に見えるし、何よりも俺に梓をくれようとしている人だ。
彼が梓と良い親子でいられるなら、(梓は全力で否定するだろうけどな)それも良いんじゃないかと思う。


なのに、心配?

「何が、心配なんですか」

彼は目元を押さえた。
半分隠れた表情は、俺には見えない。


「15年振りに帰ってきた甲斐が、梓に会わないわけがない。

……甲斐に会ったら、梓は思い出してしまうかもしれない」


あの記憶を。
独りきりで待つ暗闇の時間を。


「そんなまさか」

言いかけて、
ギクリ、とした。
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