私んちの婚約者
オッサン閉め出して。私と愁也は向かい合う。

「こほん!
あらためて……おかえりなさい、愁也」

そう言って微笑んだら。

「梓すげー素直。気持ち悪い」

ボソッと愁也が呟いた。

「なんだとコラ」

「それでこそ、梓だろ」

苦笑するその顔が、たまらなく愛おしいなんて。……私もう完全に、愁也病、末期患者だ。


「じゃあ、ちょうだい」

愁也が私に両手を差し出した。
私はきょとんと返す。

「ほえ?何が?むしろ私にお土産は?」

同じように両手を出し返せば、そのまま指を絡めて引き寄せられた。
彼と私との距離はゼロになって、身体が密着する。

「早く梓をちょうだい、ってことだけど?」

「そ、そうですか……っ」

ど、どうしよう。
なんか、ドキドキドキドキしてきたんだけどっ。

「アンタは俺以上のお土産欲しいの?……欲張りだな」

あああ、もう、どうしてこの人ってば、破壊的に色気を振りまくわけ?

愁也の胸に抱き締められて。
私多分いま、真っ赤な顔してる。
恥ずかしさを誤魔化すように、言ってみた。


「パスタにピザにティラミスは?女の子はいくらあっても困らないんだもん」

「女の子ならそこで靴とかバッグとか、ドレスとか言おうよ、梓……」

そ、それもそうだ。

「まあわかってたけどな」

クスクスと笑う愁也が、なんだか凄く優しくて、私は照れくさい。


「残念だけど、お土産はこれだけだよ」

そう言って、彼は私の手のひらに、小さな箱をのせた。


ドキン、と小さな予感。


「あのぅ、これ」

「食べ物には見えないだろ?……梓なら食えるかも知れないけど」

何を言うか!
んなこと言うと、ホントに食うぞ!!

「開けても、いい?」

結局期待に負けて、私は愁也に尋ねる。


彼が微笑んだ。
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