私んちの婚約者
入れ替わるように帰ってきた父は、真っ赤な目と真っ青な顔をして、小さな梓を抱きしめた。

「甲斐に殴られたよ。ごめんね、梓」

って言われた梓は

「パパの馬鹿あ。鼻水つけないで~!」

とかなんとか、愛溢れる言葉で父をがっくりさせてた。

この頃からこんなジャブをかましていたのね、私ってば。
ああ、何となく、思い出した。

「みんないなくなるの。ママもパパもカイ兄も。あずさは一人なんだ」



「そんなことないよ!」


あの日の私に言ってあげたい。
梓、あんたはこれから、すっごくすっごく、幸せになるんだよ。

無駄に格好良くて、俺様で、エロくて、
……私を好きだと言ってくれる、大事な婚約者に。


「逢えるんだよ……」


零れた涙を、温かい指が掬っていった。


「……梓」


目を開ければーー愁也が私の髪を撫でていた。
誰よりも、何よりも安心するその手で。

ほらね、大丈夫。

「……しゅーや………ちっさい梓……美少女よ?」

「……どんな夢見てるんだ?」


私は彼の苦笑に笑い返して、また眠りに落ちていった。
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