冬美の初恋
「あ、うん。大丈夫」

早く立ち上がって平気な所を見せようと思った。

「あ……!」

しかし、足が変な所にハマって、体制を崩してしまいまた尻餅をついてしまった。

「立てない?」

雨は近くに生えてる雑木に手をかけ、反対の手を私に差し出した。

「雨も、巻き込まれちゃうよ」

「いいから」

雨の手をつかんで、何とか立ち上がった。

しかし、また倒れた。

やはり片手だけの力じゃ足りない。

「首捕まって」

雨は上体を私の方に傾けた。

「よ、汚れるよ。制服」

「いいから」

おずおずと雨の首に両手を回した。

私の両腕についた泥が、雨の白いブレザーを汚した。

「んっ……」


雨は私の腰に手を回して引き上げようとした。

なんとか起き上がれた。

「歩ける?」

「右足が抜けない」


雨の首筋からは、汗の匂いがして、思わず目を閉じた。

こんな状況にもかかわらず、雨に触れられたことが嬉しかった。

「……っ、右?」


雨の必死な声を聞いて、喜んでいた自分を反省した。

「あ……ごめん。なんか、引っかかってる感じする」

だいたい、私のドジが発端なのに。
< 124 / 134 >

この作品をシェア

pagetop