冬美の初恋
私は、返事をしながら店内を見渡した。

(あ、クリームチョコパン1個残ってる)

クリームチョコパンは、私の一番のお気に入り。

こうやって売れ残った商品は、持って帰れたりする。


(お兄ちゃんの好きなピザパンも残ってあるし、夕食は軽めでいいかな)

「あっ」

店のガラスドアの前に、猫が擦り寄っていた。

店には屋根がついてるから、雨宿りしに来たのだろう。

「かわいー……」

犬は苦手だけど、猫は好き。

そっとドアを開けて猫に近づいた。

その猫は、誰かに飼われているのか、意外に人懐っこくて、私の手にすりよってきた。

「ふふっ、くすぐったい」

私は猫の前に座り込んで、猫を見つめていた。



ポタ…………



え?



屋根があるところにいるのに、自分の頭から、水滴が額を伝ってきた。

「…………?」

顔を上げると、自分の目の前に、ずぶぬれの男の人が立っていた。

顔を上げたと同時に、額からつたってきた水滴は、私の口の中に入った。

「わっ」


その感触に驚いて口をふくと同時に、多分その水滴はこのびしょぬれの人からきたんだろうと思った。
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