冬美の初恋
『……いきなり告られるとは思ってなかったから、戸惑ったけど、まだ、お互いのこと……それなりには、知ってても……今日みたいに、まだ知らないこと、たくさんあって……』

『俺は………俺も話してないこと………まだある。だから、いきなりつきあうってことはできない………』

『ごめん』

「ううん………私のほうこそ………いきなりごめんなさい。今日は、本当にありがとう」


そう告げて、すぐに電話を切った。

ノリちゃんみたいに、思い続けてもいいか、なんてとても聞けなかった。


ダメだと言い切られるのが怖い。


しばらくその場でうずくまって泣いてから、家に帰った。

自分の部屋で着替えて顔を洗ってからリビングに入ると、キッチンにはシチューが作っておいてあった。

お兄ちゃんだ。

私にこんな気をまわすくらいなら、もっとノリちゃんに優しくしてあげてほしかった。

「お兄ちゃん……?」

お兄ちゃんの部屋をのぞくと、お兄ちゃんはベッドに寝そべって、ヘッドホンで音楽を聴きながらメンズ雑誌を読んでいた。
< 61 / 134 >

この作品をシェア

pagetop