冬美の初恋
帰る間際、一瞬、その人は笑いかけてくれた気がした。

その人は、外で待っていた猫を抱き上げて、雨の中をかけていった。

「あの人の猫だったんだ………」



私は、片付けするのもわすれて、彼が見えなくなるまで、ずっとその姿を見ていた。



「お疲れー」

「お兄ちゃん!?」

なんとか片付けは終わり、バイトの人に挨拶して出たら、裏の従業員出入口にはお兄ちゃんが待っていた。

「そんな驚かなくても……傘持ってきてやったのに」

お兄ちゃんは持っていた私用の傘をホレ、と言って渡した。

「あ、ありがとう………でもわざわざこんなとこまで………」

「だから、裏のとこで待ってたじゃん」

「うん………」

私は少し複雑な気持ちで、傘をさしながらお兄ちゃんと歩いた。

「お兄ちゃんさ、私ももう高校生なんだし、そんな心配することないんだよ?」

「えっ、なに、冬美は俺がうざいのか?」

「い、いやいや。そんな事はないけど……彼女とかに、ちゃんと構ってあげてる?」

「んーまあ、ぼちぼち」

お兄ちゃんは、同じクラスに彼女がいる。

お兄ちゃんはオープンな性格の割りに、照れているのか、あまり彼女の話はしない。

家にも連れてこない。
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