追憶の旋律
「朝から大変だなぁ…お前も。やっぱモテる男はつらいな。」
「冗談はよしてくれよ…。こっちだって、これが唯一の悩みなんだからさ」
俺の斜め前の席に座る、一人の少年。
こいつは俺の一番の親友で生まれた時からの幼なじみ。
相楽将大《サガラショウタ》だ。
俺の事をモテる男なんて言ってる割には、こいつだって同じ。
整った容姿と、高身長。勉強は話にならないが、運動神経抜群のこいつに、人気がないはずがない。
こんなことを男の俺が言うのもどうかと思うかもしれないが、学年中から人気のある奴だ。
「第一、将大だって、人の事言えないだろ?」
「そんな訳ねーよ。お前には適わねーっての。
男の俺が言うのも変だけどよ、お前のその容姿にはみんな驚くと思うぜ?
何にしろ、このド田舎だしな。」
「やめろよ、気持ち悪い」
…長い付き合いのせいか、どうやら考えることまで似てきたようだ。
…寒気がする。
「はーい静かに。朝のホームルームを始めるぞー」
いつの間にか時間は過ぎ、気づけば朝のチャイムも鳴っていた。
ふと目線を窓の向こうへと向けると、変わらない景色が広がっていた。
背の高くなった向日葵と真っ青な空にぽつんと浮かぶ飛行機雲。
その向こうへと延々に広がる、田んぼや山たち。
嗅ぎ慣れた草や花、土のにおい。
そのにおいを大きく吸うことで生まれる、不思議な安心感。
程よく流れてくる、緩やかで涼しげな風。
悪感を抱かないほどの、クラスメイトの話声。
…旭日野中は、今日も平和だ。