愛されオーラに包まれて
"未必の故意"

局長はそう書くと、再び着席した。

『ミヒツノコイ?』

遥香がその文字を読んだ。

『君の桐生に対する行為は、これに当たる。法律用語で、自分の行う行為が思う結果になるか確実ではないが、そうなることを願う心理状態を言うんた』

局長はひとつ息をついた。

『確実ではなくても、そうなることを期待してやった行為は故意とみなされ、刑事裁判では有罪になる。今回は桐生こそいなかったし、法律そのものに触れるわけでもないが、会社に損害を与えた意味では、職務規定には完全に抵触する』

越後は鼻をすすり、嗚咽し始めた。

『だからこそ、俺は聞く。何故桐生の同情を引きたかったのか』
『止めてください』

突然、遥香が口を開いた。

『局長、それを朱里に聞く必要ありますか?』

みんなが遥香を見る。

『局長も、ご存知ですよね。朱里の心の内を。確かに、朱里のやったことは会社としては許されることではないと思います。しかし、自分の心情を洗いざらい話せばそれが許されるわけでもないですし、これ以上、私は朱里のそんな姿を見たくありません』
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