愛されオーラに包まれて
中に入ると、昭和の香り。
玄関脇の応接間の電気をつけた局長。

『寒いよな。ちょっとそこに座って待ってて』

と、私をソファーに座るように指示して、局長は部屋を出た。

初春とはいえ、3月はまだまだ寒い。
コートを着たままで座っていると、局長が電気ストーブを運んできてくれた。

コンセントを入れて、スイッチを入れる。
ストーブに手を向けて"暖まるかな"と言うと、

『ここは、成瀬川家の別邸なんだ』

別邸?
それにしては、質素だ。

『建物は古いけど、都会の真ん中で緑が生い茂って、それでいて割りと静かだろ?今は誰も住んでいないけど、スペシャルなゲストだけ、ここにお招きするんだ』
「いいんですか?そんな場所に私なんかを入れちゃって」

局長は、向かいのソファーに座りながら、私に向かって微笑んだ。

『高松、俺たちを頼れよ』

テーブルを挟んで向かい合わせになっている局長と私。

「いつも頼ってるじゃないですか。局長にも、日下部長にも、玲奈さんにも」
『じゃぁ、今回もそうしろよ』
「今回は無理です」
『何故だ』
「仕事の話ではないからです」

由依とのことは、彼女がたまたまわかば堂書店の社員であるだけで、仕事とは全く関係ない。

『デモ販の時、何かあったのか』
「…」

図星を突かれてしまった。
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