愛されオーラに包まれて
局長の携帯が鳴ったことで、沈黙が破れた。

『もしもし…うん、拉致てきたぞ。そっちは?…うん。じゃ、今から住所言うからタクシーで来て』

局長は携帯を閉じると、

『俺よりも高松を心配している男がもうすぐ来る』

泰河?

『昨日や今日のお前の状況を見る限り、俺でも十分心配なのに、桐生は、俺の何十倍も心配していると思うぞ。だから、お前本人もそうだけど、このままでは桐生にも仕事をする上で影響が出る』
「しかし、デモ販の担当を決めたのは泰河です。泰河は私のためにわざわざわかば堂書店に配置してくれたのに、その泰河の気遣いを、私は無駄にしてしまったのです」

私は、由依と同級生であることや、ある程度の過去の話をした。けど…
あの場で由依から言われた言葉は、口にすることができなかった。

『神戸さんに、冷たい態度を取られたわけだ』
「はい」
『わかば堂書店は、全国に多数の店舗を持つ大手の書店チェーンだ。うちも長い付き合いで、良好な関係を築いている』

"でも…"と、局長は続ける。

『それにしても、高松が本当に悪いのか?』

そう局長が話したところで、

"ピンポン"と音が鳴った。

局長が迎えに行き、泰河が入ってくる。
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