愛されオーラに包まれて
お母さんのお父さん・・・神戸さんにとってはおじいちゃんにあたる人が、働いていた工場の上司とトラブルになり、殺人事件を起こし逮捕されてしまう。

そして、彼は・・・日本の旧財閥のひとつ、鍬形(クワガタ)コンツェルンの長男だった。

犯罪者の孫と、旧財閥の御曹司。
引き裂かれるのは時間の問題だった。

そこで2人は強硬策に出た。

元々、男女の深い関係ではあったが、"既成事実"を作ろうと。
たとえ結婚できなくても、2人が愛し合った"証"を求めて。

そうして生まれた"証"が、由依さんだった。

由依さんをお腹に宿したことが分かって程なく、案の定、2人は別れさせられた。
妊娠の事実を知った鍬形家は、お母さんに執拗に中絶を求めた。

しかし、お母さんは由依さんを守り切り、出産にこぎつけた。
出産直後に撮影した由依さんの写真を、偽名を使って封筒で送った。

手紙に"由依"と名付けたことを添えて。

『自由に依(よ)る。つまり"自由にそって"生きて欲しい。私達のように、運命に引き裂かれるのではなく、娘の自由が尊重される人生になることを願って、名付けました』

そう言うと、お母さんの目からは涙がこぼれた。

それが、最後の連絡。

そして、彼からの返事もなかった。

由依さんには父親に"捨てられた"と教えた。
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