愛されオーラに包まれて
『では、同じものを』
『はい』

会話がややぎこちない。
そりゃそうだろうな。

感動の再会ではなくて、親子初対面だ。

『去年、親父が亡くなった』

鍬形コンツェルンの前会長のことだ。
恐らく、舟さんとお母さん・・・律子さんとを引き裂いた張本人だろう。

『だからってわけではないけど、こうやって君たち親子にようやく会える環境が出来た。意気地がなくてなかなか行動に移せなかったんだ。健吾のおかげだ』

律子さんが、梅酒のロックをカウンターに置いた。

『ここ最近の出来事は、全て健吾から聞いた。由依の苦しみによって、皆さんを巻き込んでしまって申し訳なかった。そして一番謝らなければならないのが、由依、君だ』

舟さんは由依さんを見て、丁寧に頭を下げた。

『俺と、お母さんの身勝手な恋情で、親の勝手な運命に君を巻き込んでしまい、申し訳なかった』
『頭を上げてください』

由依さんは舟さんを促す。

舟さんは頭を下げたまま、首を横に振った。

『謝っても謝りきれないくらい、23年もの間、君を傷つけたんだ』
『頭を上げてください!そんなに謝られたら、私の存在は望まれていなかったんだと、マイナスに考えてしまいます』

由依さんの言葉に、舟さんは頭を上げた。

その2人のやりとりを、律子さんは静かに見守っていた。
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