愛されオーラに包まれて
『そうだよな。君は、きちんと俺とお母さんが愛し合って、生まれた娘だ。こんなに謝っているけど、そのことは、全く後悔していない。ただ、由依を苦しめてしまったこれまでの過程には、大いに後悔しているんだ』

舟さんは着ているスーツの内ポケットから財布を取り出すと、おもむろに取り出したのが、

『これ』

舟さんは由依さんに渡したもの。

『私?』

俺が覗き込むと、多分律子さんが生まれてすぐに送ったという由依さんの写真だろう。

23年が過ぎて、ボロボロ。

『そう。今まで、1秒だって、由依のことを忘れたことはない』

舟さんの目から、一粒の涙が落ちてきた。

俺の席はちょうどコーナーの位置にあるため、2人のやりとりが良く見える。

『実は、どうしても由依に会いたくて、1回だけ、忍びこんだんだ。小学校の運動会』

それを聞いた律子さんも驚いている。

『私、何をしていた?』
『フラフープでダンス踊っていたよ』
『それ、5年生の時だよね、遥香』
『うん。男子とペアになって踊った、あの時だ』

この再会で、お互いの溝が全て埋まるとは思わない。

でも、これで由依さんの、心の闇が晴れて、本当の意味での人との交わりを持つことができれば、きっと書店員として、百戦錬磨だ。
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