愛されオーラに包まれて
マンション内1階にある駐車場。

桐生さんが乗るのは、ミニバン。
ちょっと、意外かも。

『乗りな』
「はい」

さっきのキスから、形勢が逆転しているような気がする。

運転席に座った桐生さんは、

『住所どこ?そもそも、お前って実家なの?』
「いえ、大学の時からの独り暮らしです」

それにしても、龍成社の入社2年目で、あのマンションにこの車かぁ。

私が伝える住所をカーナビに入力していく桐生さん。

『お前、結構遠くから通勤してるんだな』
「大学からは、近かったんです」

車は家に向けて、発進させる。

間が持たず、沈黙が続く。

仕方ないから、私から話す。

「桐生さん」
『ん?』
「もう一度聞きます。何で、私にさっきキスしたんですか?」

私の再度の問いかけにも、暫く黙っていた。

しばらくして、重い口が開いた。

『悔しかったから』
「え?」
『高松の心の中に俺がいないことが、悔しかったから』

「それって…」
『せっかく体が繋がっても、心が繋がってないと感じたから』

運転席の桐生さんを見ると、凄く切ない顔をしながら力なく笑った。

『お前が局長局長って言うだろ?だから心を奪うのは簡単じゃないと思った時、体を奪えるチャンスが訪れた。もしかしたら、順番は逆だけど、体を奪えたら、心も奪えるんじゃないかって…』
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