愛されオーラに包まれて
『確かさ、清水さんって、美術大学卒業じゃなかった?』

日下部長が聞く。

『はい』
『へぇ、じゃぁ、将来、何かやりたいことがあったんじゃないの?』

局長が突っ込む。

『元々、絵を描くことが好きで入ったのですが、父にはそれを職業にすることを反対されて"どうせ途中で挫折する"とか言われて・・・しかも、本当の夢は、絵は絵でも、こっちなんです』

すると、清水さんは大きなバッグの中からノートを取りだした。

『これです』
「少女マンガ?」

ノートの中には、見事な出来の少女マンガが描かれていた。

きちんとカッティングシートを使って綺麗に仕上がっている。

『このことが父にバレて、出版社とかに売り込むこともできなくて・・・』
『へぇ、うまいじゃん』

日下部長はノートを持って、しばらく見ている。

『清水さんさ』

局長が静かに話し始める。

『販売会社にキレる情熱があるのなら、営業の仕事も務まると思うぞ。最初は躓いたかもしれないけど、まずは続けてみたらどうだ』
『でも、私は羽賀部長に嫌われてますしぃ』

五部の環境のままではいくら清水さんが頑張ろうと思っても、変わらない。

『羽賀部長、営業局に来て8年になる』

局長はそう言うと、クリアファイルに挟んでいたA4サイズの紙を出した。
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