愛されオーラに包まれて
『安心しろ。仕事の話は一つもしない。今から話すのは、俺の、恋バナだ』

恋バナ?
また意外な題材だな。

でも聞いてみたいと思った私。
みんなも同じことを思っているのか、静かになった。

『俺がこの龍成社で働くようになる前、大学を卒業してから3年間、実は教師をしていたんだ。札幌の小学校で2年。成瀬川学院高等部で1年』

教師?
でも、副社長の教師って、何か似合っているかも。

研修の時とか、教え方上手かったし。

何と言っても私の母校で教壇に立った時は絵になっていた。

それは当たり前だったんだ。教師をやっていたんだから。

『昔から、小学校の先生になるのが夢だったけど、この龍成社を継ぐことが決まっていたから、2年の限定で夢を叶えさせてもらったんだ』

夢を叶えるにしては、2年は短すぎるような気がする。

『札幌でその夢を叶えている途中の頃、弟が当時まだナルガクの高等部にいて、吹奏楽部所属だったから演奏を見に来ないかと誘われたから、何となく東京まで見に行ったんだ』

マイクを通して、副社長の渇舌のいい声が響く。
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