すきなひと。

「え…何でここに?」

「いや、ここ俺の場所だから」

「は?!」


あたしはあからさま嫌そうな顔をする。
昨日の女子生徒にきつく言ってたっていう、印象がかなり強くて。
“何言ってんだこいつ”みたいな感じであたしは返した。
それに、目つけられるようなことは、一切してません的な感じで。



「高校んとき、よくここで昼寝してたんだよな」


予想外なことを口にする。
あたしは拍子抜けはしたけど、相変わらずな態度で。

「…そうなんですか」


とだけ言って、カバンを持つ。


「ちょっと待て。よく見ろ。ここ」


そう言って壁を指差す。
あたしは、めんどくさそうに指差された所を見て、書いてある文字を読み上げた。


「「“俺の特等席”」」


「な!」


子どもみたいに自慢気に言う高岡先生。
あたしは思わず指を差して笑った。


「…ぷっ…なにこれー!!子どもやん!てかそんな自慢気に…っ」


お腹を抱えて笑ってると、高岡先生はあたしを見つめて微笑む。


「やっと笑ったな」

「え?」

「いや、何でもない」


高岡先生は咳払いをして、あたしの頭にポンと手をのせて。


「遅刻すんなよ」


それだけ言い残して、体育館を出ていった。


それを見送り、あたしは熱くなった顔に手をやり、その場にしゃがみ込む。


今まで起こらなかった、胸のざわめき。


いつもより早い鼓動。


経験したことがない感情が自分を襲う。



「なに・・・これ・・」



あたしはそう呟き、膝に顔を埋めた。
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