すきなひと。



地域の文化・言葉・なまりは、元々お父さんが関西の人だったから、そこら辺は大丈夫だった。

けど、一番困ったのは
「なんで、関西きたん?」
って質問。

田舎だったら「憧れてたから」で、すむかもしれない。
変に田舎でもないし、変に都会でもない。
誰でも知ってる場所。
そんな地元だから何も言えなくて。
だから、いつも適当なこと言って誤魔化してる。
おかしくない程度に。





本当は言いたかったんだ。


“逃げてきたんだよ”


って。





部屋に入ったところで何にもすることなくて、フと目についたアルバムを手にとり、ページをめくった。


そこに写ってたのは、高校の制服を着たあたし。
友達とすごくいい笑顔をしてる。
懐かしさを噛み締めながらページを開いていく。
高校1年生…12月、1月、2月…
時が過ぎていくごとに心拍数が上がった。
3月になった瞬間、アルバムをめくる手が止まった。
次のページは高校2年生の4月。

毎回、あたしはこの先をめくることができない。
だって…涙が零れそうになるから。


カレンダーを目にする。
今日は10月20日。


「もう5年も経つんや…」


あれから"5年"。
もうそろそろ、いい加減にケリをつけなくちゃいけない。
いつまでも逃げ腰じゃ駄目だ。

あたしは、髪を結ぶ。

授業が休講になってくれたおかげで、今日の予定は何もなくなった。
クローゼットの中から、分厚いノートと何冊かのアルバムを取り出して机に置いて。
iPodをコンポに繋いで、好きな音楽を流す。





そして大きく深呼吸した。
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