C校舎の城ヶ崎くん
嘘でしょ。な、ない。
筆箱がない。
どうしてないの。
朝カバンに入れて持ってきたはずなのに。
移動教室にも、教科書と一緒に持ってきたはずだ。
C校舎へ行く前、桃ちゃんに「まだその変な色の筆箱使ってるの?」と言われたから間違いない。
机の上も中も、どこを探してもないものだから、ひとつの嫌な仮説が立った。
まさかC校舎のどこかに落としてきたのではないか、と。
C校舎とまだ決まったわけではないが、それしか思い浮かばない。
C校舎へ入る直前に落とした可能性もあるが、最悪の仮説以外想像できない。
そして青ざめた。
筆箱ないと勉強できないのに!
ガーンとショックを受ける私が視界に入ったのか、斜め後ろの桃ちゃんが背中を突ついてきた。
「千代どうしたの?」
「桃ちゃん……筆箱どこかに落としたみたい」
「えっ」
落としたときに気づけばよかったんだけど。
なにせ私の筆箱は長細くて、必要最低限のものしか入れてないから落ちても大きな音はたたない。
その上C校舎で落としたなら、気づくはずもない。
だってあのときは何度も人にぶつかったり、城ヶ崎くんに話しかける声が多すぎたから。