タイトル



「…忘れてるって?」


神影くんは
自分の顔を指差した。



座っていた神影くんは
揺れるカーテンに近づいた。




風が
強く吹いている。

違うか、
風がただ音楽室を目指して入ってくるだけ。






「…神影くんのことだけは
忘れないよ…。」



「…だけ?」





「他のことは
忘れたかっただけ…」




空気が重たくなるのが
私でもわかった。





「あっ全然、
大したことじゃないの!」

顔の近くに両手を持っていき、
ユラユラと揺らした。


しまった!!
今の少しぶりっ子だったかも…。



でも彼は
そんな言葉も動作も見ていなかったようで…

「…あるよね、そーゆーのっ…」




そう言って
窓を閉めた。

神影くんの髪は
動きを止めた。






「神影くんも、あるの?」



なんか
聞いてはいけない気がした。

だけど
口に出したものはもうどうしょうもない。







「…中学3年生のときまでを…

いや、別にない。」






いいかけた
本当の言葉を飲み込まれた。


聞きたかった
彼の言葉を飲み込まれた。












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