学園物語

刃編

これはとある双子の兄妹の、実は意外と大事な運命を決める瞬間であったりする。



「なぁなぁー!一緒の学校行こうやぁー」
今日も今日とて五月蠅く騒ぐ少年が一人とそれを面倒そうにかわそうとする少女がいた。
ジタバタの手足を動かし自分の気持ちを全力でアピールしている少年、聖刃(ひじり やいば)の手には進路調査と書かれた一枚の紙が。
どうやら朝学校で貰った用紙を提出せずに持って帰ってきたらしい。
こんなものは適当に書いて出せばいいものを。
変な所真面目だと呆れる少女、成美(なるみ)はもちろん提出済み。
夢は“お嫁さん”と語尾にハートマークをつけて書いて提出したら担任に「お前、本気なのか」と真顔で聞かれた。
「絶対にいらん!どうせまた刃が、クラス違っても休み時間の度に遊びに来るに決まってる」
「そら可愛い成美の顔見たいやn」
「なるは見たくない」
グサリ!と大きい何かが刃の胸に刺さったような幻覚が見える程に大げさに顔を手で覆い、あぁーと声を上げ足元から崩れ落ちた。
「小さい頃は…刃あそぼーってよくオレの後ついてまわって、離れるの嫌がって泣いて」
「勝手に記憶捏造しゃんといて!!」
慌てて成美が訂正を求めるも、どこから取りだしたか小さい頃の成美が刃の腕にしがみついて満面の笑みを浮かべるという黒歴史にも近い写真を見つめては嘆き続ける。
これには成美も盛大な溜め息が出る。
小さい頃から刃は世間で言う、所謂シスコンであった。
どこに行くにしても成美が一番。
学校で成美が怪我をしたと聞けば授業そっちのけで保健室に駆けつけ、忘れ物をしたと知れば家まで取りに帰ろうとしたり。
ツチノコが見たいなぁーと呟いたのを聞くと、俺は旅に出る!と荷物をまとめて家を飛び出ししばらく行方不明になった事も。
両親や成美、教師人やご近所さんの必死の捜索により無事隣の市の公園で見つかったからよかったが。
「なぁええやろー!」
「絶・対・イヤッ!!」
こんな妹大好き兄貴を持って、初めのうちは嬉しさが大きかった。
成美自身も兄が大好きだったから。
それでも歳を重ねていくと周りの環境も相まってか鬱陶しいという感情が勝っていった。
「刃はどうせサッカー選考でいくんやろ。なるには無理」
「う…ッ!」
そう、比べられてきたのだ。
頭は驚くほどにバカな刃であったが、運動神経、特にサッカーの能力はずば抜けてよかった。
実は有名進学校からも、その能力を買ってか何校からか声がかっている。
それに加えこの明るいキャラクター。
学校では年齢問わずの人気者だ。
それに引き換え成美は、頭は普通であったが運動神経はボロボロ。
テストで良い点が取れたとしても、出てくる言葉は“刃の妹なのに”
褒めてもらえているのかよくわからない言葉。
運動会では刃の妹というだけでリレーの選手に勝手に選ばれて結果ボロボロ。
全然知らない人から急に声をかけられ、戸惑っているとノリが悪いとダメ出し。
そんな生活を長年続けた結果が、これだ。
決して刃が嫌いなのではない。
年頃の女の子故のものかもしれないが、一緒にいたくない。
そう、乙女な時期。思春期なのだ。
「そ、それはそれでー!!」
「どれがどれよ!!」
「あんたらまたやってんの?」
終わる事のないだろう言い争いをしていると急にドアが開き、恰幅のいい女性が二人分のジュースと何やら冊子を持って入ってきた。
女性からしてみれば二人の喧嘩はいつもの光景のようで、特に注意する事もなくジュースをそっと机に置いていく。
「聞いてよお母さん刃が!!」
成美が女性=母に抗議の声を上げるも、はいはいと軽く往なされて片付けられてしまう。
これもいつもの事。なのだが、なんだか納得のいかない成美は大きく腕を組みふんっと鼻息荒くそっぽを向いた。
「で、その刃さん?先生があんたに渡すもんあったのに忘れてたって。わざわざ届けてくれはったで。」
「え、なんやなんや?」
「どうせ0点のテストの塊ちゃうの?」
「あほ!最近は10点越えてるわ!」
「その点でそこまで威張るな!!」
自身の息子のテストの点数が悪い事は百も承知。
むしろ良い点数を取ってくる方が怪奇現象にも近い事なので、特に咎める事もないだろうと、また二人が言い争いを始めても素知らぬ顔で冊子を渡すだけ渡し、母は「明日ちゃんとお礼言っときや」とだけ告げて部屋から出て行った。
「んぁ?なんやこれ」
終わる事のない争いに疲れ始めた刃が、母に手渡された冊子を改めて見た。
変に真面目な性格な刃を知ってか、担任が入学先として探してきてくれたのだろう。
そこには“才能開花 ルーク学園”とでかでかと書かれていた。
「入学説明書・・・はぁ?!」
「へぇー。先生が刃に合う学校探してくれたんや。よかったやん」
「よくあらへんわ!よく見てみぃ!ここに“男子校”って…」
「それはそれは、兄妹離れ出来る絶好のええ機会やんかぁー」
成美は物凄く綺麗な笑みを浮かべているつもりだが、刃から見れば物凄く悪どい笑みを浮かべているように見えた。
なんせ後ろに見えるオーラがどす黒いのなんのって。
「よくない!!オレは成美と一緒がいいんやぁー」
「ってくっつくなアホ!!それやったら断ればいいやろ!!」
「・・・そうやな」
「・・・ほんまにアホやろ」
成美の言葉に一瞬黙るも、すぐにわかりきった答えを出す。
こんな頭の悪さで受かる高校なんてあるんだろうか、と自分の成績は棚に上げ、心配を通り越して呆れた溜め息をついた。
「もっかい邪魔すんでー」
「「邪魔すんねやったら帰ってー」」
「そこ声合ってどないすんねん。」
「「いやぁ、関西の心ってものが」」
「まぁええわ。言い忘れてたけど、さっきの資料?ええところやんかぁー!お母さん速攻OK出しといたで!!」
「「おぉぉぉーーー?!!」」
変な所気の合う兄妹である。綺麗に言葉をハモらせてみせた。
気持ちはまったく逆で、刃は驚愕。成美は歓喜の声であるが。
「なんで?ちょ、おかん何してくれてんねん!!」
「だってー。二人で入学すると入学料金半額やし、その他教材などの料金も補助ってなってるしぃー」
先生イケメンやしーなどと頬を赤く染める母は見なかった事として。
何か引っかかる言葉があった。お金の事は親として安い方がいいのはわかるとして、人数がおかしい。
「え…二人って」
「うん、成美もここに入学な」
バチッと慣れ切ったようにウィンクを飛ばす母と、延長残り2秒でゴールを決め逆転優勝したかのようなガッツポーズを見せ喜ぶ刃。
一瞬思考が停止する。口をパカーと間抜けに開けているのだろうが、閉める余裕もない。
「・・・いやいやいや男子校!!わたしは女!女子!!」
「だーいじょうぶ!よくよくご覧なさい」
“女子校設立 新入生求む”
「ね!!」
負けた。
兄に勝てたとしても、母には勝てない。母は無敵だと知っている。
ただただ頷くしか出来なかった。




そして運命の日を迎える―――
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