闇の花
教室に入るとざわついていた雰囲気が一瞬で落ち着く。だけど、僕を見てもう一度会話を再開する。
しかし、その中で参考書を読んでいる女の子。彼女の名前は雨宮かなで。後ろから3番目の窓側の席。綺麗な黒髪に白い肌がよく映える。端整な顔立ちをしている。あの綺麗な顔を見ていると嫌でも思い出す。
*
*
*
約十年前
『ねぇ、悠人!私の彼氏なの!かっこいいでしょ?』
ふふんと得意気に笑う彼女。彼女の名前は相川沙彩。
「う、うん」
笑うのが精一杯だった。多分、ぎこちない笑顔だったと思う。それに気づかないくらい嬉しかったんだと今なら分かる。
「えっと、俺は雨宮かなとです。よろしく」
自己紹介されなくてもわかる。彼は生徒会長を務めていたし女子にかなりモテていたからだ。
『こっちは黒木悠人ね!私の幼なじみなの!』
「...よろしく」
複雑な気持ちでいっぱいだっけど幸せそうな沙彩の顔を見れるならそれでいいと思った。それに彼はモテるけど沙彩のこと大事にしてくれると思うから僕は彼女への気持ちは隠していくつもりだった。
付き合った当初はとても楽しそうにしていた彼女だけど月日が経つにつれてどんどん辛そうな顔になっていった。
「沙彩、どうしたの?」
『ううん、なんでもないの』
にこっと笑う顔は無理しているようにしか見えなかった。でも沙彩が大丈夫って言い張るからどうすることもできなかった。
沙彩と雨宮が付き合って半年経とうとしていた時...
夜中コンビニへ行った帰り見てしまった。雨宮が他の女と腕を組んで歩いている姿を見間違いかと思ったけどやっぱり黒木で僕は急いで沙彩の家に向かった。
「沙彩っ、雨宮が他の女と歩いてた!」
『知ってるよ。』
「えっ?」
『知ってるの。たくさんの女の子と関係持ってるのかなとは。』
俯いてた沙彩がゆっくりと顔を上げる。
『全部全部知ってるよ。だから、いちいち報告しないでよっ』
目は真っ赤になっていて頬には涙の跡が残っている。
「なんでっ、なんで別れないんだよ!遊ばれてるって分かってるのに!」
『遊びでもいいのっ!それでも付き合っていたいの!!それくらいかなとが大好きなのよ!関係ない悠人はほっといて!』
かなりやつれている彼女をただ唖然と見ていることしかできなかった。関係ないと言われたことにショックを受けた。
そう言われても沙彩のこと大好きだからほっとけなかった。
-----------------------学校
数日後
誰も来ない空き教室に雨宮を呼び出した。
「あのさ、沙彩と別れて」
「なんで?」
「複数の女と関係持ってるんだろ?」
「それがどうしたの?」
「どうしたの?じゃなくて!沙彩傷つけてんだよ!!遊べれば誰でもいいんだろ?沙彩と別れろよ」
「嫌なら沙彩から別れを切り出して来るだろ。わざわざお前が言いに来なくても」
「それが言えないんだろ!」
「お前は沙彩にそれを頼まれたの?頼まれてないよな。付き合えないくせに偉そうなこと言うなよ。」
「...っ」
「いい子演じるのも疲れんだよ。ちょっとは遊ばせろよ」
そう言って教室から出ていくのを黙って見ていた。見ることしかできなかった。