冷凍保存愛

「ふふん、こんなもんちょろいもんよ」

 かちかちっと何度か音を立てて回してみると、なんなく鍵がとけ、引き出しが開いた。

 ゆっくりと滑るように手前に引かれる引き出しの中には茶色いファイル。その上には『極秘』の赤いハンコ。

 極秘っての見ちゃったら絶対見るよね。

 道子は躊躇せずにファイルを開いた。そこにはこの学校にいる先生の個人情報。

「なんだよ、ぜんぜん極秘じゃないし、そもそもこんなもん全然見ても嬉しくない」

 ちっと舌打ちして道子は一応念のためにファイルを全部ぱらぱらとめくり、目を通した。もちろんそこには小田原のものもあった。そこには自宅住所、電話番号も書かれていた。

 ビンゴ。

 その時、外で物音がして体を強ばらせた。

 職員室内には羽都音がいる。神経を集中させた。

「だれかいるのか!」

 守衛の声が職員室の外の廊下から聞こえ、道子は慌ててスマホを出し、小田原のファイル内をいくつか写真に撮った。

 こんなもん覚えようと思えば覚えられるが今はそんなことをしている時間はなかった。羽都音が危ない。



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