冷凍保存愛
「いらっしゃい」
玄関に出迎えてくれたのは優しい笑みをたたえる細身の女性だった。
「……おじゃまします。こ、小堺です」
小堺は小さく頭を下げると行儀よく靴を脱ぎ、並べ、小田原の後に続く。なんで自己紹介をしてしまったのかと思うと恥ずかしくて顔が赤くなった。
「こんばんはー」
「……こん……ばんは」
戸惑う小堺の頭にぽんと手を置き、「妻と娘だ」と一言言い、口元を緩めた。
なんで先生はこんな自分なんかのためにここまでしてくれるんだろう。ここまでされるようなことをしていない。だって、山際さんのノートをびりびりに破いたんだ。そんな自分になんで……
「小堺君、ごはんまだよね? 食べて行ってくださいね」
「あ……でも妹が家に……」はっとした。『おまえが言えるのは、はい、だけだ』小田原の言葉が頭の中に廻った。
「ああ、そうだったな、おまえには小さい妹がいたな。それじゃあ妹さんにも持って行ってあげなさい」
小田原に勧められたソファーに座り、家の中をくるっと見回す。
高い天井に白い壁。ソファー、テーブル、テレビ以外に何もない。不自然なくらいにガランとしていた。
家の中には薄く音楽が流れていた。
「オレンジジュースでいいか?」
「はい」
「よし」
小田原自らジュースを注ぎ、自分は酒で喉を潤した。
そのすぐ後で奥さんがお盆に簡単な料理を乗せて持ってきた。小田原に勧められるままに手に取り食べ、小田原とその奥さんと娘の四人で他愛のない話をし、時間が経つにつれて小堺の緊張もほぐれてきた。