冷凍保存愛
二人並んで歩いているが、二人以外ここには誰もいない。
夕暮れ時なのに二人だけだ。
この状況にはさすがに羽都音も違和感を感じていた。
そういえば、音がない。
なんの音も聞こえない。
私たちの足音さえも。それに、さっきから体が左右に揺れている気がする。
「羽都音ちゃん、これからのことなんだけどね、聞いてくれる」
前をじっと見ながらコーヅが羽都音に声をかけた。
「あのね、コーヅ君、私、さっきから体が左右に揺れている気がするの」
「羽都音ちゃん、いい? よく聞いて」
歩みを止めて羽都音の肩をぎゅっと抱いて腰を落とし目線を合わせ、
「いい? 君はこのまま言われる通りにしていればいい。途中で逃げ出そうとか、そういうのしなくていいからね」
「何言ってるの? 逃げ出すって何? どういうこと? 私のこと置いてくの?」
「大丈夫。すぐ会えるよ。ちょっと離れるだけですぐに会えるから。僕は嘘は言わない」
「やだよ、怖いよ。一人にしないで、コーヅ君。ここなんかおかしいもん。一人にしないで」
「大丈夫。君はこのままゆっくり歩くんだ。そして、これから君に話しかけてくる男に従って。彼は怪しいかもしれないけれど大丈夫。上手くいく」
「やだやだやだやだ、無理無理無理、私にそんなことできない。どじだし、絶対間違えちゃうよ」
「大丈夫。僕が言うんだから間違いないよ。君はどじなんかじゃない。上手くやれる。信じて。いい、僕が言うんだから間違いないよ。いいね? このままゆっくり、ほら、先に見える光の方へ歩いて。僕もすぐ行く」
「一人で行くの?」
「できるよ。ずっと見てる」
「なんで来てくれないの?」
「君をここから出すのが僕の今することなんだ。出たらまた会える。ほら、行って」
「あの光の先にいるの?」
「いるよ」
「ここにいるのに?」
「そうだね」
羽都音の背中を軽くポンと押し、笑顔で手を振る。
羽都音は霞む意識の中を漂っているように体が浮かび、だんだんと考えられなくなり、光の方へ吸い込まれるように体が引っ張られて行った。
遠退く意識の中でも後ろにコーヅがいるのを感じながら。