冷凍保存愛

「もうすぐ着くからそれまで君たちは……」


 小田原の最後のことばを聞く前に二人の視界はうっすらと霞がかかりぼやけてきた。


 窓を開ける音が響く。


「やだなんかちょっと、変なんだけど、なにこれ」

 手で口をおさえて窓を叩く。

「なにこの煙。故障なの?」

「先生! 車大丈夫ですか!」

 小田原の返事はない。

「強羅君、なんか私……頭くらくらしてきた」

「ちょ、頑張れ意識保て。目ー閉じんなよ! 道子ちゃん!」


 目をこする道子の隣で強羅も同じように目をこする。


 車の中、下の方から白い煙が立ち上ってきていた。足で消そうと力任せに踏む。

 二人は外に出た小田原に声をかけようと口を開いたが声が出なくなってきた。体も動かない。



 遠くの方で誰かが走る音がする。



 二人は小田原が自分達を助けてくれるんだと思っていた。しかしその気持ちの裏では、



『だったらなんで内側からは開かない作りの車に乗せられているんだ』



 という懸念も捨てきれなかった。



 いくら待ってもドアが開かれることはなく、強羅が道子の腕を揺すっても叩いても、道子からの返答はない。残っている力で窓を叩き続けた。


 どれだけ力が入っているのか分からない。しかしこのまま気を失うわけにはいかない。


 なんとか気持ちを持ち続けなければ。二人ともどうにかなってしまう。ここで意識を失うわけにはいかない。


 痛さで意識を保とうと、強羅は窓を叩き続けた。


 自分の手から血が滲んでいて滑っても、叩き続けていた。





『誘拐? そんなことしてなんになる? 君たちは二度と帰れないんだ。これは誘拐じゃない』



 地下へと降りる階段を急いで下りながら小田原は呟いた。

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