冷凍保存愛

 泣きながら走った。


 死にたくない。


 あんなカプセルの中に入りたくない。


 未来なんてあるわけない!


 反対側のタンクまで全力でダッシュした。後ろからは小田原の怒号が追いかけてくる。

 恐怖で腹がくすぐったくなった。

 タンクの後ろに入り込むと、扉があった。



『助かった』



 扉に飛びつき力一杯押した。体当たりした。引いた。
 いくらそうしても扉はなんの音もたてない。


 鍵穴もない。ということはここは内側からは開かない造りになっているということだ。


 叩いた。力任せに叩いて叫んだ。


 ここが開かなければもう逃げ道は無い。

 小田原が来る前に逃げたい。

 羽都音は無我夢中でひっかきながら叫んだ。



 しかし、無情にも扉が開くことはなかった。

 扉を叩く音だけが室内にこだまする。



 後ろに小田原の気配を感じた。

 怖くて振り返れない。

 泣きながら扉を叩き続けた。





「君には失望したよ」






 その言葉が耳に届いたのが最後、羽都音は背中に強い衝撃を受け、目の前が徐々に暗くなっていった。

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