冷凍保存愛
「羽都音ちゃん、ごめん」
「そんな。それ本当のこと? コーヅ君、ここにいるのに」
「おまえがこいつに触れられなかったのはそういう理由だ。お前にこいつが見えたのは偶然だろう。でもこいつは実態がない。だから触れられないんだよ」
「そんな。そんなことって。だって強羅は平気だった」
「最初は君が僕を霊だって認識しているものだと思っていたんだ。でも話していくうちにそうじゃないってことが分かって、どうしたらいいのかわからなかった。そこに強羅君が現れたんだ。彼は僕みたいなものが見えるからね」
「そんな言い方やめて。ものなんて言わないでよ」
「彼はそれができる類の人なんだよ」
「知ってて言ってくれなかったの?」
「全て終わったら言おうと思ってた。ごめん」
「羽都音、分かってやれよ。こいつだって辛かったんだ」
「……」
「羽都音」
「分かってる。でも……」下を向いて目をこすった。
「羽都音ちゃん、本当に申し訳ない。でもね、今までに僕が君に言ったことは全て本当の気持ちだよ。全部終わったらどこかにでかけようって言ったこととか……君への」
最後は言うのをぐっとこらえ、コーヅも下を向いた。
「羽都音、分かってやってくれ」
「なんで強羅がそんなこというの。……もしかして……もう……これで……」
「……そうだね」
しんと静まり返る部屋。誰も声を発しない。
その時、空気が動いた。羽見都音の後ろで物音がした。
咄嗟に振り返る羽都音の首を小田原が掴み、無理やりカプセルの中に押し倒した。
走る強羅とコーヅ、もがく羽都音、狂った顔の小田原は視点が定まっていない。
逃げようとする羽都音の腹に拳を落とし、蹲る羽都音を無理やり押し込んだ。
カプセルを閉めるリモコンを押した。
カプセルの蓋が静かに閉まりはじめる。
強羅が走る。
小田原がリモコンを握りしめ、背を向けて走り出した。
羽都音はお腹をおさえてせき込んでいる。
コーヅがカプセルを飛び越え小田原の背中にとびかかる。
強羅が閉まりかけるカプセルの足で抑え羽都音の体を引きずり出す。
コーヅが小田原からリモコンを奪い、開閉ボタンを探す。
強羅の足を押すかたちでカプセルが閉まり続け、羽都音は苦しさにもがいている。