冷凍保存愛

「私、その友達」

「あ。ああ、はいはい」

「よかった。思い出してくれた」

 小堺と道子はクラスメイトだ。
 羽都音とは接点が無いが道子の名前を出せば話のとっかかりは早いと思った。

 案の定小堺は警戒心を少し解き、強張った肩を下げた。


「ごめん、お願いがあるの」

「な、何?」

「こんなこと言えないんだけど。てか恥ずかしいんだけどね」

「なな、何? どしたの「」

「お手洗い貸して」



 面食らった。
 顔の前で合掌して顔を赤くする羽都音の申し出は危機迫っていた。

 女子にそんなお願いをされたらノーと言える男子は少ないだろう。

 返事をするのにも困った小堺はひとまず頷き、急いで家の鍵を開け、木でできている戸をがちゃがちゃと音を立てて引いた。


「すぐそこだから」


 トイレの場所を手で示すと羽都音は『ありがとう』と口早に言うと、トイレへダッシュした。





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