死が二人を分かつとも

「お、マジで来るんだな。楽勝じゃん、罪人狩り」

罠にはめられたと分かったのは、槍を持った人がいたから。

待ち受けていた人。殺されると思ったならば、回れ右をすべきなのに、出来なかった。

「岸谷、くん……?」

見覚えある人が、そこにいたから。

槍を持つ人影は、弥代くんと同じ制服を着ていた。

白い槍という制服には不釣り合いな物を持って。ただ、構えることはせず、呆けていたのは、彼もまた同じ心境だったのだろう。

「は?え……?春野、か?」

私のことを分かるなら、間違い無く彼は岸谷くん。同じクラスの男子だ。

「なんで、お前……ここにいんだ。だって、ここにいんのは、死んだ奴で……」

それはこちらとて言いたい台詞だ。

天使が待ち受けていると思えば、岸谷くん。見た目はわたしと何ら変わりないけど、彼が天使で間違いないのはチロに確認済みだ。

「気をつけて下さい。あの槍で罪人刺されると、一発退場っすから!」

注意喚起するチロだけど、岸谷くんはこちらに向かってくる気配はない。

未だに混乱しているらしい。なんで、と繰り返している。

「地獄の奴狩ったら、すぐにでも生まれ変われるって聞いたのに、お前がいるなんて……。死んだのか……、俺に、俺たちにあんなことしときながら、お前も死んだってことかよ!」

混乱がまとまるなり、彼は怒りを露わにした。

危険を察知したチロが、「そよ香さん!手前が囮になりますから、逃げーーぴぎゃっ!」と、役目を果たせず槍で明後日の方向に飛ばされてしまった。

チロの安否を確かめたいけど、岸谷くんの目が私を逃がさないと見ている。

「そりゃあ、地獄に落ちるよな!俺の将来奪ったんだからよぅ!行きたい大学もあったし、なりたい職業もあった!ダチと毎日楽しくやって、まだまだやりたいことがあったってのに、何年何十年!生きられていたはずなのにさぁ!ぜんぶ、お前のせいで!」

唾を飛ばしながらの怒号。
夢では真奈に血を流させていたけど、もうしかして、あの後、岸谷くんまでも。

『西日ヶ丘高校の生徒が、何人も』

「私、クラスのみんなを……」

八木さんの言葉。ニュースになるほどの大事件。岸谷くんがここにいて、私に憎しみを持っているなら、『そういうこと』なのだろう。

「単なるからかいだってのに、マジになりやがって!第一、お前が真奈裏切ってんのがわりぃんだろがよ!逆ギレしたあげく、血が出るほどの怪我させて。しかもか、俺も……クソッタレがぁ!」

炎のようにたぎる殺意を持った岸谷くんが、突っ込んでくる。

猪突猛進に近いそれは、とっさの避けで事なきを得た。

弥代くんのように上手く避けられない身は、地面にスライディングをしている。

次に繋げない。
持ち直した岸谷くんが、倒れたままの私を睨み付ける。

「この槍で刺せば、地獄の奴らは消えんだってさ。あー、すぐにでも殺すつもりだったけど予定変更」

槍の突刃ではなく、丸みを帯びた先端がこちらを向く。

「何度も殴って、殺してやるよ!いい声で鳴けよ!どうせ、お前がここにいるんだ、あいつもいんだろ?呼べよ!呼んで助けでも呼べばいいじゃねえか!」

「っ!」

転ぶこと覚悟で無理に立ち上がる。
私がいた場所に、槍の殴打が入った。

「そうやって、お前は肝心のところで逃げてばかりだな。ええ、おい!あの時と同じか、臆病者が!」

葦の群生に逃げ道を阻まれる。
無理して突破しようにも、伸びる葉が針のむしろが如く鋭利に思えてしまった。

追い詰められる。
でも、その最中にーー

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