死が二人を分かつとも

「そよ香。そんな奴じゃなくて、俺だけを見ろよ」

私に、命令する。

振り向いた。彼の言うとおりに。
その刹那、風を切る物が私の脇を通り過ぎる。

覚えある感覚。
記憶に新しい。重苦しい鉄が宙を舞い、行き着く先で断末魔が上がるこの感覚。

見えない場所で、“ぐしゃり”と肉が潰れた音がした。

息を呑む。音の出所に目をやる前、葦が動いた。

「見るな。俺だけを見ていろ」

出てきたのは彼。
斧を持っていないことから、私の背後で陰惨な光景が広がっているのを知る。

「弥代くん……」

「怖い思いをしたな。これで分かっただろう?俺と離れると、どうなるか」

腕を掴まれた。

「さっきも今も、俺がいなきゃ、お前ひどい目にあっていたぞ。なあ、俺がどれだけお前に必要か自覚したか?もう離れるなよ。追いかけるこっちの身にもなってくれ。お前が無事かどうか、気が触れるほどに心配しちまうんだから」

労ってくれる優しさの中、寒気が立つモノが混じっている。

「弥代くんが、岸谷くんを……殺したの?」

「後ろで死んでるよ。見ない方がいい。そよ香の目に毒だろうから」

「そうじゃなくて……!岸谷くんが言っていた!一番に殺したいのは、あいつだって!私を同罪だって!真奈と岸谷くんを殺したのはーー」

頭痛。
ここまで来れば、この頭痛が起こる法則も分かってしまう。

記憶を思い出そうとしているから、痛むのだと思っていた。

けど、本当はーー

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