死が二人を分かつとも

妻への、言い訳を考えていた。

「あなた、来てくれたのね」

ベッドで出迎えてくれる妻を見た瞬間、全てが飛んだ。

「無事に、産まれたわよ」

飛んだ感情も、妻が抱く小さな命で歓喜を携え戻ってくる。

泣いた。
ひたすらに、泣いた。

呆れかえる妻の声がする。
そうして、小鳥のような耳をそばだてなければ聞こえない小さな声も。

「よ、よかっ、が、がんばったな!」

出産の辛さを語る汗だくでやつれた妻と、無事に産まれてきた命に言う。

信仰を持たない身でも、この時ばかりは神に感謝したくなる。妻への感謝を一番に。

「あなた、泣いてないで、きちんと見てあげてよ。抱っこしてあげて」

差し出された小さな命ーー赤ん坊を、男は真綿で包むかのようにそっと抱き上げた。


まだ目も開かない赤ん坊。見えない分、手のひらがよく動いていた。

「あ、あくびしたぞ!」

「するに決まっているでしょう」

「わ、わっ、手!手がっ!俺の指、すっごい力で握ってくる!」

「お父さんこんにちはー、って言っているんじゃないのかしら」

「そ、そうか!こ、ここ、こんにちはー!」

吹き出す妻。偶然なのだろうが、赤ん坊も笑っていた。

初めての子供。その感動に浸っていたが、男はふと思う。


「この子は、女の子だよな」

「ええ、そうよ。可愛い女の子」

「そ、そっか。ーーなら」

出産の知らせを受ける前から、待ち望んでいた赤ん坊(事実)。

産まれるのは女の子でーー

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