死が二人を分かつとも
「“もう一人は、どこなんだ”?」
男女の双子を身ごもっていた妻。
出産したなら、当然、男の子の方もいるはずなのに。
妻の顔が、男から逸らされた。
呼んでも、肩を震わし、こちらを向いてくれない。
「まさか……、だって、母子共に順調で」
違う意味の涙が流れる。
そんな時。
「失礼しまーす。検査終わりました。男の子の方も、健康に問題なしです!」
陽気な看護士さんが場の空気を壊した。
へ?と呆けていれば、肩を震わせて笑う妻がおでましした。
「お、おお、お前ええぇ!」
「ごめんごめん。ちょっとしたお返しよー。出産に立ち会ってくれなかった、お返し。いくらお母さんがいても、あなたがいなくて結構寂しかったんだからね」
怒る気もなくすような言葉には、すまんとしか返せなかった。
「素敵な旦那さまですね」
「はい。いつも笑わせてもらっています」
看護士から赤ん坊を預かり、抱く顔は、母親のそれだった。
俺もしっかりしなければと、こちらも抱いている赤ん坊の相手をする。
指を差し出せば握ってくれる。
まだ産まれたばかりなのに、眩いほどの生命だ。
「かわいいなー。……あれ?」
と、赤ん坊の手ーー左手の指を凝視する。
凝視し、男はすぐに真っ青になった。