死が二人を分かつとも
ーー
目まぐるしさに、酔う。
人ではなく、数日で枯れてしまう植物らしく、事の進みが早い。
それでも順応出来たのは、単なる繰り返しでしかないから。
これは、夢だ。そう思った瞬間、人は夢の中を生きられる。
見たい物、したいことだらけとなった世界で呼吸をする。
だからこそ、現実で目を閉じた私は、見たかった物を見ている。
忘れた物を思い返している。
思い出す為に繰り返している。
ただし、目を開けた時の私は“あの時のままの私”だ。繰り返しているとは思いもしない。目を閉じ、暗転し、そうかと知る。
弥代くんと恋人となったあの日。
嬉しさと共に、後ろめたさが常につきまとう毎日。
それでも、嬉しさばかりが占めていたのは、弥代くんがいたからだ。
「そよ香、左手出して」
舞台は、彼の部屋。
時間は分からないけど、遠くでヒグラシが鳴いているから夕方なのかと察する。
「そよ香?」
「あ、うん……」
「ぼーっとするほどに、考え事か?ーーああ、昼休みのことか。大丈夫だったか?Cクラスの奴が、お前のクラスで騒いだんだって?」
言われ、そういえば“昼間にそんなことがあった”と思い出す。その上で、言わなきゃいけないことも。
「真奈とかがフォローしてくれたから、平気だよ。ただ……私と一緒に帰るの、その子に見られたっぽい」
「だから、今日は別々に帰ろうのメールか。どうせ、ここで会うのに何でかと思った」
ため息合わせて、背もたれ代わりにしていたベッドに背中を預ける弥代くん。顔を覗き込めば、彼の腕が抱き寄せてくる。
「いっそ、話しちまえばいいのに」
「みんな、傷つくよ……」
男の子らしい胸板が頬にあたり、熱くなる。
頬ずりすれば、髪をいじられた。
「俺はそよ香が傷つかなければ、それでいいんだけど」
「みんなが傷つけば、私も悲しくなる」
「ほんと、善人……。ま、そこがそよ香のいいとこでもあるんだけどな」
腕が離れ、今度は彼と肩を寄せて隣り合う。
「高校卒業したら、結婚だな」
「どうなるか分かんないよー」
飛躍し過ぎな話は冗談と受け取ったけど、私の左手を取った彼の真意は本気でしかなかった。
「分かる。俺は何があっても、そよ香のこと好きだから」