死が二人を分かつとも
「あの、弥代くん」
雨の音はするけど、がらんどうなここでは寂しさがある。気を紛らわそうと声をかける矢先に、肩に重みを感じた。
「そよ香さん良かったですねー。ここまで運ぶ間、お姫さま抱っこされてましたよ!」
「あ、コウモリ……」
肩乗りコウモリに頬ずりされた。
「お二人とも運がいいっすよねー。大概は、この雨で“溶けちまう”ってのに。あ、そよ香さんたち襲ったあいつらも、きっと土に還ってますよ!」
「この雨、“死人”と“住人”が浴び続けると体が溶けるらしい」
「えっと……」
「そよ香が寝ている間に、そこの白いのから、色々聞いた。地獄らしいとこだよ、ここは」
嘆息し、コウモリを鷲掴む弥代くん。「あんまそよ香に触んな」と言いつつ、地面に下ろした。
「“死人”って、私たちのことだよね?確か……」
「そうっす!分かりやすいように、手前がまた説明しますね!」
枯れ枝を持つコウモリ。指がないのに、どこで持っているのかと思えば、単に両の翼で挟んでいただけだった。
小さな子が手のひらを合わせているみたい。
「やっさんに説明したのとおんなじで行きます。えー、まーずー、ここは地獄です。地獄には、三種類の奴らがいます」
砂に描かれる落書き。
髪の毛がある棒人間と、右手が欠けた棒人間と、翼が生えた丸。
「まず、死んだばっかりの人です。これが、“死人”さん。生前に悪いことして、地獄に落とされた最悪の奴らです!あ、そよ香さんとやっさん除く!」
フォローしつつ、髪ある棒人間を枝で指し、次は欠けた棒人間。
「んで、概ね、ここに来た死人さんは五体満足で健康良好な感じなんすけど、やっぱここは地獄ですからねー。死人を痛めつける存在がいるんすよ。痛みでぶっ壊れて、人間から化け物と言える存在になった奴らを“残骸”ーー人間だったものと、手前は呼んでいます」
さっき、私たちを襲ってきた化け物。
身震いしたが、もうあの残骸はどこにもいない。
「最後に、“住人”。これは手前のことっすねー」
「コウモリみたいな生き物が、他にもいるの?」
「いますよ。手前みたいな飛べる奴と飛べない奴。掃除係として、この地獄にいます!」
「掃除?」
「はい!残骸の駆除です!」
あからさまに警戒したのが分かったのだろう、待って待ってとコウモリがパタパタ翼を動かす。