死が二人を分かつとも
「チロ」
言った瞬間、幼稚な名前だと却下しようとしたのに、肝心の子が嬉しそうに翼を広げた。
「チロっすね!いいですね!手前は今日からチロです!」
「え、い、嫌じゃないの?」
「どこがですか!そよ香さんが決めてくれたなら、手前はチロです!今からチロって呼んで下さいね!」
「……、チロ」
「はいっ」
「チロ」
「はいっ!」
ダメだ、チロが定着しちゃった。
これならシロの方がまだ幼稚に思えないかもしれないのに。
「チロ、か」
そうかと呟く弥代くんにでさえ、元気なお返事をするコウモリーー改め、チロはさておき。
「懐かしいな。そよ香のお婆さんが飼っていた犬の名前じゃないか」
「え」
「覚えてないか。……そよ香の祖母が飼ってる犬の名前だ。白くて小さかったのに、何十年も生きているから大きくて、それでも『チロ』とお前も可愛がってた犬。ただ、お前の祖母の家他県だから、帰省した時にしか会えなくて寂しいって。だから、『結婚したら、白い犬飼おう』って話していたじゃないか」
「そ、そんな話もしてたんだ」
夢で、結婚の約束していたけど、やっぱりあれは私の記憶なのか。
答え合わせをするためにも、弥代くんに聞く。
「弥代くんが、私に告白してくれた時……雨だった?」
「……」
思い出したのかと大きくなった瞳から察せる。
「寝ている時に、少しだけど、昔の記憶みたいの見ちゃって」
「寝ている時、人は記憶の整理をするとか何とか聞いたことあんだけど、それなのか……」
「地獄で寝ちまうそよ香さんの度胸にお見それしていたんですけど、なるほどー、無くなったものを取り戻すために寝ていた訳っすね!」
「今は、眠くないのか?」
「う、ん。ただ、たまに頭痛みたいなのがあって……」
「頭に負荷かかってんじゃないんすかー、それ。あ、無くなったってーよりも、奥底に沈んだなんかを引っ張り上げてる真っ最中とか」
「辛いなら、思い出さなくてもいいのに」