死が二人を分かつとも

「でも、弥代くんのことは、きちんと思い出したいよ」

胸元の指輪を取る。

弥代くんがくれたもので。

「二人っきりの時は指にするって約束だったよね」

薬指にはめてみせた。

ここまでの私の行動を呆然としていた彼だけど、そっかそうだなと左手を見せてきた。

「本当は、二人っきりの時じゃなくても、周りに見せびらかしたかった。俺とお前は付き合っているって」

既につけられていた指輪。
男性に指輪は少し違和感あるけど、結婚指輪(相手がいる)ならおかしくはない。

「私が、秘密にしたかったから」

「そよ香のワガママは、可愛いってことで許される」

気にするな、と左手を取られた。

「はい、はい!手前、これ知ってます!結婚式ですものね!」

「地獄にも結婚する奴いるのか?」

「いえー、なんか、男が指輪持って、木を相手に結婚式の誓いってのをしてました。ありゃあ、結婚する直前に死んだんでしょうねー。ショックで頭パーになって、一人で三役してましたよ。新郎新婦に、立会人。ともかく、ええと、愛する者たちがやることですよね?」

「ああ、そうだな。結婚式には立会人が必要だよな?」

「うん。牧師さんとかだと思うけど、もしかして、ここで?」

「やりましょう!」

三者ともに疑問符を飛ばし、一回りして結果に繋がる。

ムードも何も、こんな場所じゃ望めないけど、この地獄に綺麗な場所はないだろう。


< 50 / 133 >

この作品をシェア

pagetop