死が二人を分かつとも
「こんなこと、している場合じゃないんだろうけど、なるべく悔いを残したくないんだ。やりたいことは、やっておきたい」
何が起こるか分からないからと、重い言葉だった。
生きている内に、やりたかった。
家庭を築いて、二人で幸せに暮らしていたかったのに。
「『悔いない人生だった』って言える奴は、そういないんだろうけどさ。俺の場合、死んで良かったとは言える。こうして、やりたかったことを出来るんだから」
悔いがあるなら消化しようとする彼の望みを叶える。
頷けば、チロが咳払いをし、誓いの言葉を述べる。
「えー、汝、やっさんは、そよ香さんを妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も、健やかなる時も、共に歩み、死が二人を分かつまで、愛し、添い遂げることを誓いますか?ーーとかでしたかねっ」
「そんな感じだろ、エセ牧師」
「で?で?誓いますか?」
誓いますと、言う直前、弥代くんは違うなと言葉を変える。
「『死が二人を分かつとも』、俺はそよ香を愛し続けるよ」
死が二人を分かつのならば、同じ場所に立つ彼の誓い。
「そよ香は?」
「わ、私も、誓います」
「はい、結婚決定です!」
でたらめな結婚式だ。
でも、おかしくなるほど幸せだ。
地獄での結婚式。
酷い場所にいるはずなのに、こんなことが出来るほど彼のそばは安心してしまう。
「めでたいっ、めでたいっすねー。近くに手前の同類いれば、盛大に祝いたいんですけどねー」
外ーーというよりも、雨を眺めるチロ。
先ほど、この雨はヤバいと弥代くんは言っていた。
「この雨、黒いの?」
風景自体が寒色系統なものだから、分かりづらかったが、目を凝らせば、この雨に色がついているのが分かる。
「黒いです真っ黒!この“いかにも”ってのが、罰らしいでしょ?増えていく死人さんを一掃するのは、大概、この雨ーー神様の天罰なのかもしれません」
神様の天罰。
首を傾げれば、チロから先に聞いたであろう弥代くんが説明する。