死が二人を分かつとも
「地獄があるなら、天国もある。あの黒い雲の上に、神様や天使がいるんだと」
話す当人も半信半疑であるのが察せた。
心底、馬鹿馬鹿しいと顔に出ている。
「神様も酷いんすよー。この雨、死人への罰のはずが、手前たち住人にも効果あるんですから。枯れ木しかないから、なかなか雨宿り出来ないしっ」
「罰……」
償わなければならない罪があるから、ここにいる。
弥代くんは自殺と言った。なら、私は、どうしてここにいるのか。
記憶はないけど、悪いこと出来る性格じゃないと思う。これだけ臆病なのだから。
私も、自殺したのか。だとしても、臆病な私が自身を殺せるほどの理由も思いつかない。
時が経てば思い出すのかな。
ああ、でも。
「ずっと、ここで生きていかなきゃいけないのかな」
死んだ後の人生。
死後のことを深く考えたことはないけど、漠然と『安らかな場所』だと思っていた。
チロは、ここで寝ることに度胸があると言った。
人体を溶かす雨に、狂った残骸。目に見えて分かる罰なのに、いつどこで遭遇するかも分からない。
雨を凌げるこの場所でも、雨が止めば、残骸たちがやってきそうな。
安全地帯がない地獄で、死ぬことない余生を過ごさなきゃいけないんだ。
「俺がいても、嫌か?」
そう聞く彼は、私がいれば“それで十分だ”と口にしているようなものだった。
「何が怖い?さっきの残骸なら、お前だって見ただろう。俺が、潰す」
傍らの斧に触れる彼の指。
高校生には似つかわしくない凶器のはずが、先の光景があってはそうも言っていられない。
凶器を持つ人、使いこなす人。
くすんだ刃から滲み出る凶悪性が、彼の手から体、顔にまで伝っていくよう。誰でも殺せる顔だった。
「それとも、俺が怖い?」
「ち、違うの!そうじゃない!」
即答は大声。
私の怖いことは、そんなことじゃない。
「弥代くんが、怪我しないかって……。さっきのも見ていたけど、やっぱりあんな化け物を相手にするのは怖いよ。なんで、弥代くんは平気なの?」
逃げ出さなきゃいけない敵に悠然と立ち向かえる心境。逃げる足さえも、恐怖で竦んでもいいのに。
お化け屋敷のお化けとは訳が違う。
紛れもない本物が、明白な殺意を持って、群れをなし、どこまでも追いかけてくる。
想像しただけでまた震えてしまうのに、動じない弥代くんは斧から私の手に触れた。