死が二人を分かつとも
指輪の内側に、名前が彫られている。
「けー、そ、よ、か?」
『k.soyoka』
そのまま読んだ瞬間、頭に『春野そよ香』と浮かび上がった。
「そよ香、そうだ、そよ香。『そよ香』だ!」
で、すぐに「あれ?」となる。
思い出せた名前は、『春野そよ香』。でも、指輪は『k』と彫られている。
もうしかして、間違っているのか。考えてみたけど、答え合わせ出来る記憶もない。
『そよ香』は間違いない。絶対とは言い切れないけど、しっくりと馴染む物がある。
霞の向こう側の景色が見えたかのような安堵感。うっすらでも、何も分からないよりはマシだ。
自身の名前。頭から抜け落ちないように、反芻する。
一度は声で、二度目からは頭で。
名前を口火に、他に思い出せることはないか考えてみたけどーー霞は漂ったままだ。
「……どこかに」
ここがどこか分からないなら、分かる場所に行くしかないか。
闇雲だけど、こんな薄気味悪いところでじっと座っているのは嫌だ。
立ち上がる。制服についた灰色の砂を落とす。
指先についた残滓を、指の腹でこすってみれば、やけにサラサラしている土だった。
「変な地面」
つま先で小さな穴を彫ってみる。それでも土の色は変わらない。まさかだけど、灰が降り積もって出来ている土なのかな。
「木も変……」
こんな土で育つ植物が枯れるのも頷けるけど、苔色をした木は初めて見た。
近づき、こちらも触れてみる。
ボコボコした肌触りは、この木がとぐろを巻くかのように天に伸びているから。小さな木が何本も絡みついて出来上がったみたい。剥製のようなそれでも、植物と自己主張せんばかりに枝先からツタが垂れ下がっている。
このツタもまた木の幹に絡みついていた。蛇みたいだ。