死が二人を分かつとも

この木々から成り立つここは、森の中と思っていいだろう。

見通しは可もなく不可もなく。他の植物が生えてないから、獣道みたく歩けない訳じゃない。

「どっちに行こう」

辺りを見回しても、目的地になる物はない。

耳を澄まして見ても、耳鳴りでもしそうなほど静か。

落ち着くための深呼吸はさっきからずっと現在進行形でしてるが、匂いもなし。

五感に頼ったところで何も成果は上げられないのなら、第六感。

「こっち、かな」

頼りない第六感だけど、歩けるなら行くしかない。

一瞬、声を出して助けを呼ぼうかと思ったけど、怖い人が来るイメージが出たので口を塞いでおく。

知らない場所を無闇に歩くのは危険かもしれないと、歩きながら後悔してきた。

十歩ごとに後ろを振り返り、立ち止まり、また進む。

後悔しても、後悔先立たず。止まったままでは、何も変わらないじゃないか。

頭で、何となく出てきた歌をリフレインする。

何の歌かも分からないし、歌い出しもさっぱり。サビだけが永遠と回るけど、明るい曲だから気分も少しは紛れた。

サビの歌詞は、『死が二人を分かつまで、君だけを見続けよう』と男性が歌っている。

誰かが歌っていた曲か何かだったような……中途半端に欠けているな、本当に。

そんな歌を思い出すなら、家族の名前や顔を思い出したいのに。

「分からないことだらけ」

発狂してもいいのだけど、こんな時こそ冷静にの言葉が過ぎる。

混乱して不安な筈なのに、何故だか、心のどこかで『大丈夫だ』の単語が浮かび上がっている。

大丈夫なわけないのに、私一人でどうにか出来る問題じゃないのに、どうして。

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