死が二人を分かつとも

「諦めろ。お前、死んだんだ」

「や、弥代くん!?」

躊躇わずに話す彼は、無慈悲以上の鬼だった。

「話した方がいいだろう。当人が知りたがっているんだし」

「知りたがっていても、話さない方がいいこともーーって、弥代くんはそう思って、私に隠しごとしているんでしょっ」

「いや、こいつ傷付いても別に構わないから」

「そういう問題じゃ……」

彼にとっては、『そういう問題』なのだろう。

淡々とした口調で、呆気に取られている八木さんに、「ここは地獄で、ここにいる限り化け物たちに襲われる」と現実を突きつけていく。

まさか、そんな。と繰り返す八木さんでも、やがて「そっか」と全てを諦めた言葉に変わる。

「まだ、色々とやり残したことがあるのに、なぁ」

重みある嘆息。丸まった背中が哀愁漂わし、生気が抜けていく様が見て取れた。

「42才で、僕は死ぬか。長生きの時代で、80才になってもまだ生かされる時代になったって言うのに。『足腰不自由になって、物忘れが酷くなって、寝たきりになってまで生きたくはない。そうなる前に死にたい。好きなことが出来て、好きなもん食べられている間に死ねたら本望だ』とか、妻と話していたなぁ。

自分の寿命なんて分からないけど、まだ20年かそこらまで生きるもんだと思っていたのに……そう話していられた内が花か。呆気ないな」

苦笑する男性。
泣きそうなのに、私たちを見て、そんな顔をしていた。

「僕が悲観していたら、その若さで死んだ君たちに申し訳がないな。高校生だろ?」

制服から私たちの年齢を推測する八木さん。ややあって、思い出したかのように手を叩く。

「ん?あ、ああ!そうだ、その制服!君たち、西日ヶ丘高校の生徒か!ニュースで見たよ!そうか、そうか!その若さでどうして死んだかと思ったらーー“どおりで”」

「え?」

西日ヶ丘高校?ニュース?
納得した様子で話されても、こちらは何を話しているのか見当もつかない。

でも、西日ヶ丘高校。
その言葉を聞いた時、頭がチリチリと痛んだ。

自分が高校に通っていたとは分かっていたけど、高校名は思い出せなかった。もしかして、私が通っていたのは。

「わ、私、西日ヶ丘高校のーー」

「そよ香、行くぞ」

有無を言わさず、彼に手を引かれた。

無論のことながら、一人になりたくない八木さんの制止と、もっと話を聞きたい私の足が彼の行動を阻止する。

「あのっ、ニュースって!な、何かあったんですか!」

そよ香!と、怒鳴られた。
けれども、出た言葉は戻せない。

「何かって……ここにいるってことは、君たち、“被害者”だろ?西日ヶ丘高校で生徒が何人もーーうわ!」

戻せないからこそ、無理に絶つ一撃は斧の一振りだった。

八木さんの脇に振り下ろされた刃。持ち上げれば、地面を抉った跡が残る。

「黙れ消えろ、次はない」 

抜けた腰を下ろしながらも、必死に後ずさる八木さんを一瞥し、彼は私に向き直る。

「そよ香、忘れているようだからもう一度言う。そうして、付け足す。俺は隠しごとを話すつもりはないし、そよ香がそれに気づく要因も作りたくない。無くした記憶を知りたい気持ちは分かるけどさ、絶対傷つく。思い出した後に、『忘れてしまっていた方が良かった』じゃ、手遅れなんだよ」


私のためと言われては、返す言葉がなかった。ただ、『分かった』と口に出せない。


一つの可能性があったんだ。

私が、何かしたと思っていた。
でも、何の躊躇いもなしに斧を振り回しす彼を見て思った。

死んだ私たちを被害者。西日ヶ丘高校の生徒が何人も。

これだけの情報があれば、西日ヶ丘高校で何があったのか想像がつく。

そうして、教室で凶器を振り回す彼もーー

「っっ!」

掴まれた手を払う。
狐につままれたように、信じられないと一拍置いて驚愕した彼。

慌てて、私を捕まえようとしたけど、彼の手が届かない距離。

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