死が二人を分かつとも
「つっかまえたー!」
後ろから、首を絞められた。
太い腕が、ぐっと首に当てられ、体を引き寄せられる。
熱気のこもった体が、背後に密着した。
「お前っ!」
「動くな動くなってー!首、ぽきって鳴るよ?見たい?見たい?」
前には焦燥と殺意を持つ弥代くん。
後ろには、嬉々と興奮を持った八木さんがーー
「地獄ってことはさ、何をしてもいいってことなんだろ?じゃあ、僕はここで、第二の妻を見つけたいと思う!あっちでやり残したことがあるんだ。妻は殺せたけど、子供はまだ。もう戻れないんなら、こっちで。今度は、僕のことを臭いだのあっち行けだのと言わない子にしよう!」
鳥肌が立ち、吐きたくなるほどの声。
悲鳴を上げた。それが男にとっての起爆剤になったとしても。
「いいねー。僕の妻も、最後はそうだった。リストラされて、あんだけ人のこと馬鹿にして足蹴にしたくせに、ちょーっと殴っただけで黙って震えて、助けて下さいって!それ見ていたら楽しくなって、止まらなかった!止まらない止まらないから、次に子供ーーあー、君と同じぐらいの子だ!妻が終わってからと思ったのに、最近の高校生は怖いねー。そこの彼氏くんみたいに。ゴルフのクラブで殴ってくるとは思わなかったなぁ。あはは、思い出し笑いしちゃうほど、頭が痛い。
おんなじ高校生だけど、君はそんなことしないよね?僕の子供みたいなことは?なーら、僕の妻と同じだ!非力で、悲鳴上げて、涙を流す女と!」
「それ以上喋るな!耳障りだっ!そよ香を離せ!殺してやる!」
「怖い怖い怖いなー。君も怖いよね、悲鳴あげるほど。ほら、もっと悲鳴あげなって。彼氏くんの顔怖いよーって、泣きわめきなさい。そうすれば、僕と一緒に彼氏くんがいないところに行けるよー?」
暴れるも、首が絞まっていくだけ。
弥代くんに助けを求めてしまう。
命の危機を本能で感じる一方で、これは因果応報だと頭の片隅は冷めたままだった。
弥代くんから離れたのは私だ。
私が離れなければ、こんなことにはならなかった。
一度は疑っておきながら、彼に助けを求めてしまう救いようのなさ。流した涙は、恐怖が大半を占めるけど、罪悪感からもある。
「彼女の悲鳴が聞こえないかい?耳掃除はきちんとしている?ほら、どんどん酷くなる。何が怖い?あー、ああー、そうかそうか。彼氏くんが持つ斧が怖いのかー。分かるよ納得、僕も怖い。ほら、彼氏くん。彼女の悲鳴を聞きたくないなら、斧を捨てなさい。でないと、僕が親切に、彼女の声帯潰すから」
嗚咽に変わる悲鳴は、呼吸が一度止まったから。一瞬、本気で殺意が腕にこもった。ぐっと力が込められ、緩めた後に咳き込む。
咳き込みと共に、彼の叫びも耳に通った。
次いで、重い鉄が落ちる音も。